この記事は2003年9月6・7日に開催された埼玉県立川越高校文化祭にて配布されたものの一部です。

訂正:本文中図1に、ラムジェットエンジン・パルスジェットエンジンが「ガスタービンエンジン」に分類されていますが、実際は内燃機関−ダクトエンジンに分類されます。

 

ジェットエンジンを作ろう

未完成ですが

             

 

はじめに

蒸気機関の発明以来、機械文明の最も根幹においてその発展を担ってきたのが原動機 ―― エンジンです。

筆者も昔からエンジンが好きで、図鑑に載っている透視図などを見ては喜んでいました。中学生のときには、庭の隅に放置されていたスクーターを引っ張りだしてきて、動かなくなったエンジンを友達と一緒に直したりもしました。そんなエンジン好きが高じてついに自作に乗り出してしまったのです。もちろん、エンジンを作るというと容易なことではありませんが、構造が単純で作れる見込みがあると思ったのがジェットエンジンでした。      (・・・それにあの音がなんともたまらない!)

 

ジェットエンジンのしくみ

ジェットエンジンが初めて開発されたのは1937年、ドイツのハインケル社によるものでした。

それより現在に至るまで60年、今ではそのバリエーションも広がり、音速の2倍以上で飛ぶことは珍しいことでも何でも無くなりました。

 

これからジェットエンジンについて一通り説明しますが、まずはジェットエンジンがどんなエンジンに属しているのかを見てみましょう。エンジンの種類を分類したのが図1です。

      図には書かれていないエンジンもあります。

まず、エンジン(原動機・熱機関)は大きく3つに分類することができます。内燃機関・外燃機関・ロケットエンジンです。最もよく聞くのが内燃機関で、車のガソリンエンジンやディーゼルエンジン、そのほか、私たちが日常目にするエンジンのほとんどは内燃機関でしょう。内部に取り込んだ空気を燃焼させて、高温高圧となった燃焼ガスを使って仕事を行うものがこれです。

次に外燃機関。こちらは少々レアな存在ですが、発電所の蒸気タービンや、蒸気機関車や昔の船などの動力機関であるスチームエンジン、それに知っている人は知っているスターリングエンジンがこれにあたります。外部で水や空気などを加熱し、高温高圧となったそれらの流体を作って動力を得るものです。

最後にロケットエンジン。燃料を爆発的に燃焼させ、噴出するガスの勢いで推力を得るものがロケットエンジンです。一般にはあまり知られていませんが、化学燃料ではなくイオンを静電気力で噴出させて推進する静電加速型エンジン等もロケットエンジンの一種です。 ちなみに、普通のロケット発射時に見られる白い煙のようなものは、煙でも水蒸気でもなく「湯気」です

 

 

図1  ラジコン技術2003年5月号の図を参考に一部編集しました

 

さて、少々脱線しましたが、ジェットエンジンについて見てみましょう。

ジェットエンジンは区分から言うとガスタービンエンジンの一種です。ガスタービンエンジンは通常の4サイクルガソリンエンジンにおける 吸気→圧縮→燃焼→排気 という過程を一度に行い続けるのです。

 

少し詳しく説明すると  (次ページ 図2参照)

1.圧縮機で空気を圧縮する。圧縮機はタービンと軸でつながれている。
2.圧縮された空気は燃焼器に送られ、ここで燃料と空気を混合し点火される。
3.高温高圧となった燃焼ガスはタービンに吹き付けられ、軸を回転させる。
4.回転力を得た軸は再び圧縮機を回し、空気を圧縮する。
といった過程を連続的に繰り返し、出力を得ます。


2

また、圧縮段階までの比較的低温の空気を扱う部分をコールドセクション、燃焼器から先の高温のガスを扱う部分をホットセクションと呼ぶことがあります。

 

さて、図1を見て気づいた方もいると思いますが、ここには「ジェットエンジン」という名のエンジンはありません。航空機用ガスタービンエンジンのうち、「ターボジェットエンジン」と「ターボファンエンジン」を一般にジェットエンジンと呼んでいるのです。図にあるターボプロップエンジンなどは、ジェットエンジンの派生形のようなものです。

ここでは、ターボジェットエンジンとターボファンエンジンについて詳しく説明します。

 

ターボジェットエンジン

発電目的などでガスタービンエンジンを使う場合は、燃焼ガスの持つエネルギーのほとんどが軸を回転させるために使われますが、ターボジェットエンジンでは軸を回転させる分に振り分けるエネルギーを最小限にし、残りの燃焼ガスを勢いよく噴出することで推進力を得ます。
取り入れた空気を100%ジェット噴射に使うものがターボジェットエンジンです。また、ピュアジェットと呼ばれることもあります。ジェットエンジンの中ではもっとも初期に開発されたものですが、徐々に数は減ってきており現在では一部の戦闘機や古い機体などに使用されているのみです。ターボジェットのノズルから噴射される高圧ガスは相当な速度を持っているため、超音速機などによく使われたようです。ただし、騒音が大きいことや、ガス排出速度が速すぎるため音速以下の巡航では効率が悪いことなどが欠点となっています。
図3

 

ターボファンエンジン

ターボファンエンジンとは、ターボジェットのエアインテークの前段に推進専用のファンを設けたものです。
このファンはガスタービンのサイクルとは独立した専用の駆動タービン(パワータービンという)と繋がっていることが多いようです。現在ほとんどのジェット機がこの形式のエンジンを採用しています。ターボジェットに比べ、特に音速よりも低速の域で推進効率が高く、騒音が少ないなどの利点があげられます。

エンジン内部に入って燃焼に使われる空気と、ファンによる推進に使われる空気の重量の比をバイパス比といいます。ターボファン初期に見られたものは主に低バイパス比のものでしたが、現在は技術革新により、さらに高いバイパス比を実現し一層効率のよいものになりました。

この発展形として超高バイパスエンジン(ギアードファンエンジン)というものも構想中のようです。
図4

 

さて、これでジェットエンジンの大まかな仕組みは理解していただけたでしょうか。

今回は題名にあるように、より構造が単純なターボジェットエンジンを製作することにしました。

 

 

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・・・ちなみにターボプロップというのは、ターボファンのファンを思いっきりギアで減速した上にプロペラにかえ、一番外側のカウルをなくしたような感じです。現在のプロペラ機はほぼ全てがターボプロップ機です。レシプロエンジンで有名なものはスホーイ26やエクストラ300などのアエロバティックス機や、小型のセスナ機ぐらいです。

ターボシャフトというのもありますが、これは空気をおしのけて推力を得るのが目的ではなく、軸出力を取り出すことが目的です。主にヘリコプターに使われます。

 ラムジェットは、一本の管のような形をしていてタービンや圧縮機をもちません。高速で飛行すると空気が管に入るだけで圧力が発生し(ラム圧)、燃料を噴射して点火すると勢い良く燃焼するのです。圧縮機がありませんからタービンも必要ないというわけです。

 パルスジェットはラムジェットの入り口付近にシャッターを設けたようなもので、ラム圧がかかるとシャッターが開き空気を取り込んで燃焼させます。すると今度は燃焼の圧力でシャッターが閉じ、推力を発生させるわけです。間欠的に燃焼するのでパルスジェットと呼ばれます。

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コンプレッサー圧縮機)

外部の空気を取り込み、圧縮して燃焼室に送り込む部分です。

コンプレッサーには、何段にも重ねたファンで空気を進行方向と平行に送り込み圧縮する軸流式と、空気を外側に飛ばして速度を与えた後、減速して圧縮する遠心式があります。

軸流式は大量の空気を取り込め、高い圧縮比を実現することが出来ますが、部品数が多く複雑になります。

遠心式は単純な構造で初期のジェットエンジンによく使われましたが、エンジンの直径が大きくなる、圧縮比が小さく高い回転数を必要とするなどの短所があります。

現在、ターボプロップなどを除くジェットエンジンのほとんどが軸流式を採用していますが、製作のしやすさから遠心式を選択しました。

※遠心式は「中からざかる方向に圧縮する」の意味で、遠心力とは無関係だと思うのだがどうだろうか

5

 


まず、インペラの直径と羽の形状を決めます。ここでは適当に10cmにしました。

直径10cmのディスク(円盤)に、羽をつけていきます。

羽の形状は当初3次曲面を使ってカッコ良く決めましたが、一枚一枚の形状を合わせることが難しかったため、単純な板状のものを並べる形にしました。(写真1)

 形になった試作品は電動ドリルの先端につけ、形を変えて風量の差を観測しました。いろいろと形を変えてみましたが、あまり大きな違いはありませんでした。むしろ形に凝るより軽量化したほうが具合がいいようです。

最初は総アルミで製作しましたが、実験で回していると歪んでしまったので後にディスクだけステンレスに変更しました。

写真1 オープン・インペラ

 

軸受け

次に必要なのは軸受けです。ジェットエンジンなどの高速で回転するものの場合、特に軸受けは特に精度を必要とするので慎重に作業を行います。

ここでは詳細な寸法・組み立て方・材料などは割愛させてもらいます。比較的細かいことは筆者のホームページ「YASの無謀工作 http://beethoven.s27.xrea.com 」にて公開の予定です。

おおまかな部品の構成は図6のようになっています。ステンレスパイプ・銅板・ステンレス板を切り抜き、まっすぐ軸が通るようにベアリングを設置します。実物は写真2のようになっています。(写真にはそのほかの部品も一緒に写っています。また一部の部品の組み合わせも図6と変わっています)

組みあがったら、ベアリングに潤滑油をさしてできあがり。

以前作ったロボットではベアリング内径と軸の直径を間違えて失敗してしまったのですが、今回はきわめて良好です。

図6     写真2


タービン

タービンは高温高圧で噴き出す燃焼ガスを受け止め、コンプレッサーを回す動力を生む風車のことです。

これにも大きく分けて軸流タービンと輻流(ふくりゅう)タービン(ラジアルタービン)の2種類があります。

軸流タービンは軸流コンプレッサーの働きを反対にしたようなもので、進行方向と平行に進むガスを受けて回転力を生みます。対して輻流タービンは遠心コンプレッサーと似ていて、円周方向から中心方向に向かって吹き付けるガスによって回転力を生みます。               図7

最近のジェットエンジンはほとんどが軸流タービンです。模型用ジェットエンジンの一部に輻流タービンが使われていましたが、現在では軸流が主流になっているようです。ここでも軸流式を採用しました。

タービンは700℃以上の燃焼ガス(このクラスのエンジンの排気温度。本物は数千度になる場合もある)にさらされる訳ですから、工作精度はもとより素材も半端なものでは困ります。

 ところが、売っていた金属板の中で十分な厚さがあるのは銅か真鍮しかありませんでした。

銅の融点は1083℃(らしい) ですから完全に融けることは無いでしょうが、高速で回転するのでやはり心配です。真鍮の融点は銅よりも低いようです。

 一緒に売られていたステンレス板は厚さがせいぜい0.5mm程度。しかも値段が高い!

ということで、一番厚い銅板を買ってきました。

     本物のジェットエンジンのタービンは特殊な合金などの新素材を使っています。タービンの素材だけでも一つの学問として成立するぐらいですから、奥の深い世界なんでしょう。

銅板を直径10cmで切り抜きます。タービンは重心を円の中心にぴったり合わせなければいけないので、コンパスで円を描いた後、ハンドニブラ(金属板を切る道具)を使って大きめに切り取り(図8)、次にやすりで円に近くしていきます(図9)。さらに旋盤(回転する素材に刃を当てて削る装置)にこの銅円盤を取り付け、きれいな円になるように仕上げます(図10)。コンパスの中心跡に針を当て、重心がとれているか確認します。

図8    図9    図10

 

さらにリューター(小型のハンドグラインダーみたいなもの)を使って円盤に切れ込みを入れていきます。

次に、全て等しい角度になるように切れ込みの入った部分を折り曲げ、効率を良くするため飛行機の翼の断面のように湾曲させます(図11)。以上でタービンの製作完了!

できあがりが写真3です。

11     写真3

 

 

 

燃焼室

燃焼室は燃料と空気を混合し、燃焼させる部分です。エンジンが失火しないように微妙な調整が必要です。また、タービン同様高温にさらされるので素材にも注意が必要です。今回は、買い出しのときに偶然発見したステンレス製配管用継ぎ手を燃焼室の壁に使用しました。厚さは1mmほどでちょっと頼りない感じですが、ステンレスの融点は1500℃ほど。タービンのように高速で回転するということもないので、これでなんとかなるだろうと思いました。

 

 

 

燃焼の方法はいくつかあり、燃料と空気をあらかじめ混ぜておくブンゼン(予混合)式燃焼、必要な空気を強制的に送り込んで混合させる全一次空気式燃焼などがあります。(図12)

ジェットエンジンとしてよく見られるのが全一次空気式燃焼ですが、失火のおそれがあります。一方、実験室のガスバーナーなどで最もポピュラーなのがブンゼン式ですが、燃焼速度で下手をすると逆火を起こして危険です。

今回は、なるべくシンプルに行きたいのと、逆火より失火のほうがマシだと思ったので全一次空気式にしました。

図12

ちなみにジェットエンジンの燃料はケロシン(灯油)です。本物のエンジンも家庭用灯油とほとんど同じ成分のものを使っています。ジェット燃料の中にはガソリンを混ぜたものもありますが、今回のような手作り品にガソリンなんぞを使ったら、えらいことになります。

途中「アルコールもいいのでは?」というアドバイスをもらいました。確かに使えそうな気がします。

前置きが長くなりましたが、製作に入ります。

とりあえず買ってきたステンレスパイプに、これまでに作った軸受けを付けます。

ここで、燃料を燃焼器に送る管を製作します。実際のエンジンは燃料を霧にして噴射しますが、霧にするなんて難しいことは出来ないので、らせん状に巻いた管を燃焼器に入れて、燃料がここを通過する間に気化させることにしました。この管の材質は色からして真鍮とみられますが、実験室のすみに転がっていたのを拝借したものなのでよくわかりません。

もう一度写真2を良く見てください。奥のほうに金色をした管が軸受けのまわりに巻かれているのが見えると思います。これが燃料蒸発管です。

 

点火装置

ジェットエンジンは小型といえど始動はやや手間と時間がかかります。まずモーターや圧縮空気を使って低速で回転させておき、プロパンガスやブタンガスなどを燃焼器内で燃やし予熱しておきます。十分にあったまったら燃料を注入し、具合を見ながらだんだんと回転をあげていきます。

 つまり始動には燃焼器内を暖め、燃料に着火できる熱源が必要となります。といっても、自作品のこと、新しくプロパンガスを導いて点火させる機構を作るのは大変なのです。

 そこで思いついたのが電熱線。川下部長に譲ってもらった電熱線をスライダックにつなぎ、電圧をかけていくと真っ赤になりました。ためしに石油を一滴たらしてみると、ボッという音とともに一瞬燃え上がります。どうやらこれならいけそうです。

 早速燃焼器に穴を空け、電熱線を通します。

 

と、ここで気が付いたのです。燃焼器の壁はステンレス。導体です。無論電熱線もショートしてしまい、熱くなってくれません。苦肉の策としてとったのが、比較的耐熱性があるだろうと思われる樹脂系接着剤を使って固定するという方法(写真2を良く見ると電熱線があるのがわかると思います)。これで電熱線が熱せられ、点火に十分な熱を確保できたわけですが・・その樹脂が電熱線によって焦げ、えらい匂いを出すのです。この匂いは絶対猛毒です。

さて、あとはカウルを作って燃焼実験をした後、最後の試行錯誤をして完成・・・・だったのですが

今回のジェットエンジンは、とりあえずここまでの所で発表ということになりました。本当は完成して見事に自立運転したことを発表できればよかったのですが・・

 


 

おわりに

ずっと頭の中にあったものをここまで形にできたということは嬉しいことです。

完成した姿を見たいという思いが強かったからか、今まで作ってきたどれよりも楽しく作業することが出来たと思います。

それだけに未完成のままというのは残念です。ましてや1学期までは順調に製作できていたのに。

ただ、言い訳をさせてもらうと、ここにきていままで通りに作業が進まなくなった理由もあったのです。

まず第一に、燃焼実験をする段階に差しかかったこと。

燃焼実験には危険が伴い、安全対策をしっかり立ててからでないと、どうしても実施できなかったのです。さらに、「燃料が無い」。

冬の間ならばストーブに山ほど入っているのに、夏となると灯油なんて簡単に手に入らなくなってしまったのです。

ガソリンスタンドか何かに行けば手に入ったのでしょうが、結局行かずじまいで遂に夏休み。

夏休みに入ると夏期講習が始まって部活に行きづらくなってしまったのです。もちろんジェットエンジンは学校に置きっぱなし。そのままズルズルときて、結局未完成のままくすのき祭に発表することになってしまったのです。

そもそも、このジェットエンジンは去年のくすのき祭終了後、1年のうち最も自由な時間が取れる間に、データロガーという情報収集機器と一緒に製作し定量的な実験を行うのが目的だったのですが、そこに現れたのがTV出演という罠。

取材のメインテーマとなったイオンクラフトの実験も、いろいろあって面白かったのは確かです。が、2学期と冬休みを潰してまで頑張った末放送されたものが、あまりと言えばあまりのもの・・・

あの時間をもっと有効に使えていたら今頃は・・・・

などとグチっぽくなってしまうのでした。

 

 

このエンジンいつか必ず完成させなければと思い、後継者探しをしているところです

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

ジェットエンジンの製作過程については、筆者のホームページにも掲載予定です。

遊び半分で始めたHPなので見苦しい部分も多いと思いますが、こちらもよろしくお願いいたします。

YASの無謀工作 http://beethoven.s27.xrea.com/

 

 

参考文献  

ラジコン技術 2003年5月号  電波実験社

 

   航空実用辞典(web) 日本航空

 http://www.jal.co.jp/jiten/dict/p217.html#01-02-01

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

) ジェットエンジンの製作には、危険を伴うものが数多くあります。参考にする場合は安全に十分注意してください。

なお、このレポートを読んだことで生じた、いかなる障害についても責任を負いかねます。ご了承ください。

 

 

 

 

 

最後に:バナナの皮の静止摩擦係数、いつか測ってやる!  

そのときにはHPにアップするのでよろしく